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3年目くらいまでの弁護士向け実務刑事弁護の覚書


by lodaichi

医療観察法、鑑定入院命令取消しについて新判例

鑑定入院命令について最高裁の新判例が出ている。
最高裁判所平成21年08月07日決定である→最高裁HP

”鑑定入院命令”といわれてもぴんとこない方がいると思うので、前に書いた記事を引用しておく

 「事件は検察官の裁判所による申立てにより始まる(33条12項)。少年事件が送致で始まるのと似ている。
 次に、少年事件では観護措置がとられることが多いが、これにあたるのが鑑定入院命令(34条)である。鑑定入院命令による入院の期間は原則2ヶ月、場合により1ヶ月の更新ができることになっているから、どんなに長くても3ヶ月以内に事件は終了してしまう。」

 即ち、少年事件とのアナロジーでいえば、観護措置決定に相当するものと思ってもらえばよい。
 
 観護措置決定も取消しができるから、鑑定入院命令についても取消しが可能なように規定されている(医療観察法72条)

条文をあげておこう

(裁判官の処分に対する不服申立て)
第七十二条 裁判官が第三十四条第一項前段又は第六十条第一項前段の命令をした場合において、不服がある対象者、保護者又は付添人は、当該裁判官が所属する地方裁判所に当該命令の取消しを請求することができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、この請求をすることができない。
2 前項の請求は、対象者が対象行為を行わなかったこと、心神喪失者及び心神耗弱者のいずれでもないこと又は対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要がないことを理由としてすることができない。
3 第一項の規定による不服申立てに関する手続については、刑事訴訟法第四百二十九条第一項に規定する裁判官の裁判の取消し又は変更の請求に係る手続の例による。

72条の1項は鑑定入院命令に対し取消し請求ができること、それができるのは、
 対象者、保護者又は付添人
であることを明らかにしている。

 2項により理由が制限されている。
 次のような理由では取消し請求はできないとされている。

 ア 対象者が対象行為を行わなかったこと
 イ 心神喪失者及び心神耗弱者のいずれでもないこと
 ウ 対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要がないこと

 しかし、今回最高裁の決定は、これらの理由以外によって、鑑定入院命令を職権で取り消す途があることを示した。
 
 この最高裁決定を利用して、鑑定入院命令の取消し請求(ないし職権発動の促し)を付添い人としては行っていくべきである。

 要旨は次のとおり。

(要旨)
1 鑑定入院命令が発せられた後に鑑定入院の必要がなくなったことなどの事情は,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」72条1項の鑑定入院命令取消し請求の理由には当たらない
2 裁判所は,鑑定人の意見を聴くなどして,鑑定入院命令が発せられた後に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」による医療を受けさせる必要が明らかにないことが判明したときなど,鑑定入院の必要がないと判断した場合には,職権で鑑定入院命令を取り消すことができる
by lodaichi | 2009-09-09 07:29