3年目くらいまでの弁護士向け実務刑事弁護の覚書


by lodaichi

国選弁護人の選任の効力

国選弁護人の選任の効力について参考となる最高裁決定がでていたので、紹介する。

平成18年12月19日最高裁決定(集刑 第290号741頁)

 自分の所有物を押収された被告人が、検察官に対し、押収品を還付するよう請求したが、その一部しか還付されなかったので、還付されなかった部分について、準抗告を申し立てたことに対する判断である。
 問題は、その準抗告が、被告人に一審判決が出された後、約1ヵ月後に一審の国選弁護人(控訴がされたが、控訴審での弁護人は選任されていなかった)から申し立てられたものであるというところにある。

原決定は,
「本案被告事件につき第1審判決が言い渡された後,申立人が控訴を申し立てたことにより,甲弁護人に対する国選弁護人選任の効力は既に失われている上,同弁護人が同被告事件の控訴審の弁護人に選任された事実もないことが明らかである」
として,本件準抗告の申立てを不適法として棄却した。

 これに対して、特別抗告がなされたところ、最高裁は、原決定には違法があるので、取り消しをし、東京地裁に差し戻した。

 最高裁の多数意見は、国選弁護人の選任の効力について触れずに上記決定を導いたのであるが、国選弁護人の選任の効力について補足意見、意見がついたことから、この問題について最高裁が評議したが、結論を保留にしたことがわかる。

 泉裁判官は、
「一審における国選弁護人の選任の効力は,被告人の控訴申立てがあったというだけで直ち
に失われるものではなく,少なくとも当該被告事件の訴訟記録がいまだ第1審裁判
所に存し,第1審裁判所が上記のような裁判をする可能性がある段階においては,
第1審選任弁護人は弁護権を行使することができるというべきである」
として、弁護人の選任の効力が失われていないとの意見を述べた。

これに対する、那須裁判官の補足意見は、現在の実務を考える上で、非常に参考になる。
まず、
「弁護人選任の効力の終期については,審級代理の原則(刑訴
法32条2項)との関係で論議があり,従来の実務では,その終期を上訴期間の満
了又は上訴の申立てによって移審の効果が生ずるまでとする上訴申立説に基づきお
おむね運用されている。」
という現状を紹介する。

 泉裁判官の意見については、
 「確かに,可能な限り間断ない弁護権
の保障は被告人の権利保護や人権の擁護に不可欠であって,刑事弁護の理念でもあ
るが,国選弁護をめぐっては解決すべき多くの問題が山積しており,特に,平成1
8年10月から日本司法支援センターが業務を開始して国選弁護報酬の支払事務等
が同センターに移管され,これらの実務が緒に就いたばかりでいまだ定着していな
い等の状況を配慮すれば,当審が本件について弁護人選任の効力の終期につき判断
を示すことは時宜を得た処理とはいえない。
また,間断ない弁護権の保障を実現するためには,上訴申立後に国選弁護人の選
任を速やかに行う態勢の整備が不可欠であり,それには,まずもって原審裁判所が
上訴審裁判所に訴訟記録を可及的速やかに送付するという実務の改善とその定着こ
そが急務である。」
として、法テラスの事務が定着していないことや、上訴申し立て後に記録を速やかに送付することこそ寛容なのではないかという考え方を打ち出し、
 本件は、特殊な事案であるから、「その処理に
当たって,原決定の採った見解に対して弁護人選任の効力の終期につき特段の判断
を示すことなく,原決定が著しく正義に反することを理由にこれを取り消し,原審
に差し戻すという事例判断にとどめるのを相当とするものである。」
として、多数意見が国選弁護人選任の効力に触れなかったかについて解説をしてくれている。
[PR]
# by lodaichi | 2010-07-15 10:12
少年事件で気をつけるべきことという題で、事務所内でゼミを行った。

そこで、若手の弁護士と話していて、少年事件の移送の問題は、あまり分かっていないようだったので、ここに記しておくこととする。

被疑者段階では、少年も成人と手続き的にはほぼ同様であるといってよい。
もちろん、少年法には、勾留の要件は少年の場合「やむをえない場合」に限るとか、書いてあるが、被疑者国選の場合などは、勾留の決定が既にされてしまったあとに、弁護人として関与することになるわけで、こうなってしまうと既に出されてしまった勾留決定を覆すのが、はなはだ難しいのは成人の場合と変わらないなあという印象だ。

少年の場合は、検察官が家裁送致をする。その瞬間から、少年事件特有の問題が生じる。

まずは、観護措置をめぐる攻防がある。観護措置をとられてしまっても、家裁は色々な理由から、この措置を取り消すことがあり、この辺を見ていると勾留取り消し決定の運用がはなはだ硬直的なのとは、趣きを異にする。

それと、少年事件の場合、移送というものがありうるのだ。
これを念頭においておかないといけない。
例えば、東京都に住所のある少年が、千葉市で逮捕勾留され、千葉家裁に送致されたとする。
千葉家裁は、少年の住所地の東京家裁に事件を移送することが通常だ。
つまり、少年は
千葉の警察→千葉の鑑別所→東京の鑑別所
という風に、拘束場所が変更することになる。

刑事事件のような感覚で、千葉家裁で審判するんだろうと考えていると、いつのまにか少年が移送されることになりあわてるということになりかねない。
これも成人の場合にはない少年事件の特徴の一つだ。
[PR]
# by lodaichi | 2010-07-08 10:36
難解な法律概念と裁判員裁判
司法研修所編集
税込価格: ¥4,450 (本体 : ¥4,238)
出版 : 法曹会

本書でとりあげられている「難解な法律概念」は、
・殺意
・正当防衛
・責任能力
・共謀
・少年法55条
の5つ。

本編は68ページと短いが、資料編が長く、資料編だけで250ページくらいある。

裁判員に対してどのような説明をするかという実務家にとって非常に難しい問題に、単なる言いかえだけでは駄目でその概念の根本に立ち戻って、事案に即して説明するというスタンスは、参考になる。

特に、これまで弁護士が苦手としてきたであろう責任能力の点については、丁寧にとりあげられており、これ一冊で責任能力を学ぶ教科書にもできるのではないか。
[PR]
# by lodaichi | 2010-06-12 09:48
私選弁護人紹介制度については、以前
 私選弁護人紹介制度と被疑者国選
という記事を書いた。

 その後、私選紹介での被疑者(又は被告人だが、以下「被疑者等」とする)との接見状況などをみていると、被疑者等のタイプとしては2つにわかれるようである。

 a 国選希望型
 b 私選希望型

である(これは勝手な私のネーミングである)。

 a 国選希望型
は、国選弁護をもともと望んでいたのであるが、資力要件(50万円)を満たさずに、私選紹介制度にいわば強制的にまわされてしまったといってよいタイプである。
 このタイプの被疑者等は、接見で事情を聞くと、「私は国選弁護をお願いしたんですが、なぜだか私選をお願いしてみろといわれまして・・」といったようなことを話すことが多い。
 よくよく話を聞いてみると、50万円以上の流動資産をもっているのであるが、それを私選弁護の弁護料としてまわすだけの余裕は無いという方が多い。
 であるから、被疑者等本人としては、国選を希望しているのであるが、制度の都合上、私選紹介制度にまわされてしまっているのである。

 このような場合、弁護士は、制度上は、私選を活用すべきことを説明はするが、国選でお願いしたいという本人の意思が固ければ、私選として受任することは不可能であるから、弁護士会としては、拒絶の通知(刑事訴訟法31条の2第3項)の処理をしていくということになろう。

 b 私選希望型
は、私選を希望するタイプであるので、弁護士としては、弁護方針や弁護費用についてよく協議する必要がある。
 弁護費用などが問題なければ、受任することになるが、そうでない場合もある。

 これは私選の受任一般の問題と同じである。
[PR]
# by lodaichi | 2010-05-27 21:24

NHK「クローズアップ現代」
2010年 4月 8日(木)放送
社会問題 事件・事故
揺らぐ死刑判決
 ~検証・名張毒ぶどう酒事件~

同番組内で
「犯人である確率が80%であっても有罪にする」
というある裁判官の発言が報道された。


それに対する、ゲストの木谷明(法政大学法科大学院教授;元裁判官)のコメント
http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=2873

>>本当に8割でいいと考えているとすれば、私はそれは明らかにまちがいだと思いますけれども、そういう心理に傾く裁判官の気持ちはある程度は理解できるんですよ。法廷では、まず悲惨な被害の状況が確実に立証されます。そして、目の前にはですね、検察官の立証によって、いかにも黒っぽく見える被告人がいる、そういう状況になると、こういう重大犯罪を被告人がやったんじゃないかという疑いがかなりの程度あるのに、その被告人を本当に釈放してしまっていいのかと、無罪と認めちゃっていいのかというところで、裁判官は内心葛藤すると思うんですね。その場面で「真犯人を逃がすことがあっても無実の者を処罰してはいけない」と割り切ることができないと、先ほどの裁判官のような考え方になってしまう。そこをどう割り切るかが大きな分かれ目であると思います。

 木谷さんのコメントは、間接的ながら、8割の心証で有罪でよいという裁判官が相当数いることを認めているのだと思う。
 そうでなければ、「そんな裁判官いるはずがない」というコメントになるはずだ。

 刑事弁護をするものとしては、以上のような裁判官がいることを十分に踏まえて弁護活動をすべきだ。

 木谷さんがいうように、それは理論的には明らかな間違いであるが、木谷さんですら、そういう心理になりやすい裁判官の心情はわかるといっているのだから。
[PR]
# by lodaichi | 2010-04-10 10:58
修習生と話をしていたら、少年保護事件付添扶助事業のことはわかっていないみたいだった。
修習生がわからないのも無理はないのだが、実務では結構使う(少なくとも当事務所では)ので、ここで解説しておく。

少年保護事件付添扶助事業とは、扶助事業で少年事件での付添人を対象とするものである。

 例えば、窃盗事件で少年が逮捕・勾留されたとする。
 窃盗事件だから、被疑者段階では、被疑者国選制度が適用され、少年には国選弁護人がつけられるが、家裁送致になってしまったら、弁護人ではなくなってしまう。
 また、少年の国選付添人はかなり限定された場合でしか選任されない(通常、窃盗事件では国選付添人は選任されない)ので、少年には付添人を私費でつけなくてはならないことになる。

 これでは、少年の防御などがはかれないので、扶助事業として、少年保護事件付添扶助事業があるわけだ。

 現在、この事業は
  日弁連が実施主体となっており、日弁連が日本司法支援センター(法テラス)に対して事業を委託している。
 であるから、付添扶助事業の申し込み受付などは法テラスが窓口となっているのである。

 先の窃盗事件の例でいえば、
 被疑者段階は国選弁護人で
 家裁送致されてからは、形としては私選の形で付添人となるが(だから、付添人選任届を取っておく必要がある)、弁護士費用は付き添い扶助制度を利用することになる。

このような間隙が生じることについて、日弁連では
全面的な国選付添人制度の実現を求める決議
を出しているので、興味のある方は参照されたい。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_res/2007_2.html

[PR]
# by lodaichi | 2010-04-06 10:15
 弁護人から便せん及び封筒を差し入れることができるか?

 当然できるじゃないかと思われるかもしれないが、佐賀少年刑務所では、同刑務所長制定の達示に基づき、「うちの業者を通じてじゃないと駄目だ」とこれを拒否したのである。

 これに対して、弁護士が提訴。

 裁判所は、弁護人からの便せん及び封筒の差し入れを認めた。

 平成22年2月25日福岡高裁判決 
 判決全文はこちら(pdfファイル)

 これにより、今後は弁護人からの差し入れも認められるであろう。
[PR]
# by lodaichi | 2010-04-01 18:18