3年目くらいまでの弁護士向け実務刑事弁護の覚書


by lodaichi

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 先般、当事務所にきている修習生に
「検察官は、少年事件の全ての事件を家庭裁判所に送致しなければならないのかね?」
と質問してみたところ、
修習生
「少年事件では全件送致主義ですから、すべての事件を送致しなければならないと思います」

「それでは、ひとつの例外もないの?」
とつっこんだが、
「全件ということですから、例外はないと思います」
という回答だった。

しかし、これは不正解である。

なぜ、この修習生が間違ったかというと、「全件送致主義」という言葉にはまってしまって、そこから思考を展開できなかったからである。

「全件送致主義」というのは、少年法のもつ構造を端的にとらえた用語だが、その言葉だけにとらわれず、常に条文にかえるとうい姿勢を忘れると誤った解釈をしてしまう。

「全件送致主義」の条文は次のとおり
(検察官の送致)
第42条 検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第45条第5号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。

この条文からわかるとおり、
 検察官は、犯罪の嫌疑がない場合には送致は通常しない
ことになる。

 だから、少年の被疑事件においては、嫌疑の不存在を検察官に主張して、家庭裁判所への送致を回避するという刑事弁護活動ができることとなる。
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by lodaichi | 2009-06-28 17:19

公務所照会請求

以前、弁護人側からの証拠収集手続で活用できるものとして
 証拠保全と公務所照会請求
をあげた(→過去記事


 証拠保全については、さらに詳しい記事を書いたが(→過去記事
公務所照会請求はまだであったので、今回はこの点について書いておこうと思う。

 刑事では、「公務所照会請求」という聞きなれない名前だが、民事訴訟の
 文書送付嘱託申立て、調査嘱託申立て
にあたると思ってももらえば、少しも難しいものではないことがおわかりいただけるかと思う。

条文
第279条 裁判所は、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。


具体的な事例
 例えば、被告人に精神科の通院歴があり、責任能力が問題になりそうなケース。
 こういう場合、カルテ等の取得が必要という場合が多い。
 そこで、検察側に証拠開示を求めるのがまず手筋である。
 捜査側でちゃんとこの点を捜査していて、証拠開示がなされれば、公務所照会請求などする必要はない。
 しかし、捜査が十分でなかったりして、必要なカルテが取れないという事もある。
 こういう場合、公務所照会請求を利用して、カルテの取得を裁判所に申請する事となる。
 
 
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by lodaichi | 2009-06-26 06:45

弁護人と示談交渉

 被害者のある事件で弁護人として示談交渉をどのようにするかということは、新人弁護士がもっとも不安に思うことのひとつなのではないかと思う。

 これは、
  被害者が弁護人をどのような目でみるのか
  どういうスタンスで自分は被害者の方と向き合ったらよいのか
ということが、経験のない弁護士ほどわからないからである。

 犯罪被害もそれぞれであり、被害者の思いもそれぞれであるから、マニュアルはない。

 ただ、あくまで弁護人は、加害者とは別人であるし、被害者も弁護士という立場をある程度はわかってくれていることは念頭においてよい。

 被害者が弁護人との面会を承諾する場合、「弁護士さんが話したいというなら話を聞いてみてあげても良いかな」という程度の思いは持っているはずである(そうでなければ、面会すら承諾しないだろう)

 この被害者の思いを、会ったときにうまくくみ取って、被害者の思いと被疑者・被告人の利益をマッチングさせることができるかどうか、これが弁護士にもとめられることだと思う。

 そういう意味で、
  自分がこの事件で被害者なら、どのように加害者側の弁護人に話をされたいか
ということを考えれば、被害者との糸口は見出せるはずである(もっとも、そのシミュレーションも外れることがしばしばであるが)。

 弁護人が謝るかどうかという問題があるが、私なら謝らない。
 弁護人は、加害者本人ではないからだ。

 それよりも、被害者の巻き込まれてしまった状況(本件犯罪行為及びそれ以後の手続き)を気遣う方がよい。

 例えば、「私の聞いているところでは、全治2週間の怪我を負われたということですが、お怪我の具合はどうですか?」
という具合に。
 例えば、「いろいろ警察から連絡があって、警察にも何度か足を運ばれたのではないですか。」
とか。

 そこに不満があれば、被害者はそのことを話してくれるし、そうでなければ、「いやそれは別に・・・」というような反応をするだろう。

 つまりは、被害者が何に関心を持っているのか、弁護士に会うといってくれたからには、何らかの話を聞こうとはしているわけで、そこから話をしていけばいいということである。

 示談をするには、お金の話は不可欠だが、日本人というのは、お金の話にいきなり入るのをいやがる人が多い(例外はある;「お金だけ返してくれればいいですよ」という人もいる)

 だから、お金の話は最後の方にするのが基本であろう。
 ケースによっては1回目の話ではお金の話しすらできないこともある。
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by lodaichi | 2009-06-15 11:08
全国初の裁判員裁判、8月3日初公判の整体師刺殺事件か


 裁判員裁判が8月3日に公判が開かれるという記事。

 起訴が5月21日以降のはずで、公判前整理手続の第1回が6月10日行われ、ほとんど争点が整理されたというのは、私のような平凡な弁護士からは信じられないことである。

 公判前整理手続は、
 検察官の証明予定事実、証拠開示
があってから、
 弁護人の類型証拠開示
が行われるはずであり、弁護側としてはそこで開示された証拠をすべて検討したうえで、被告人と打ち合わせ方針を決定するはずである。

 この記事の事案はどういうスケジュールで行われたのであろうか?

 記事はこの点について何も触れられていない(一般の読者には全く関心のないところだろうから仕方ないが)。

 記事には弁護人の名前が書いてある。
 検索してみたら、中央大ロースクールのリーガル・クリニックの担当者である。
http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/lawschool/date_syunji_j.html
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by lodaichi | 2009-06-11 07:52

法廷通訳の問題

「経験通じず」法廷通訳人の不安ピーク 大阪弁護士会が警鐘

ここで指摘されている問題点は
・口頭主義が裁判員裁判で貫かれる結果、通訳人の負担が重くなるのではないか
・裁判員裁判では1日5時間以上、数日間の連日開廷になるが、通訳人が耐えることができるのか
・法廷通訳は、待遇面でも不透明である
というところでしょうか。


法廷通訳が従来から持っている問題が、裁判員裁判で一層拡大すると思います。
千葉も通訳事件が多いので、実際にどうなるのか気がかりなところです
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by lodaichi | 2009-06-10 21:09

証拠保全の活用例

 前に、証拠保全などを活用してほしいという記事を書いたが(→「弁護人からの証拠収集方法」)

具体的例がないとイメージをつかみづらいであろうから、証拠保全について具体例をあげておく。

 被疑者段階からの弁護でも、被告人段階からの弁護でも同じだが、接見(特に、初回の接見)では、被疑者・被告人の体調が悪くないかどうかを必ず聞くべきである。
 もちろんこれは、身体を拘束されるということで、体などに支障が起きていないかどうかを第1の目的とするものであるが、逮捕や取り調べ時などに暴行を受けていないかを確認するにも有用である。

 例えば、被疑者に対して、
「体調はどうですか。怪我とかはしていませんか」
と聞く。
 怪我をしているとの回答があれば、
「それはどうしてできたのですか」
と聞くことにより、捜査によるものか否かがわかる。
 捜査によるものであれば、それは以後問題となる可能性が高い。
 そこで、怪我をしていること及びその程度を証拠に残しておくために証拠保全手続きを使うのである。

 証拠保全の条文をあげておこう。

第179条 被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
2 前項の請求を受けた裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

 この条文を見てもらうと分かるように、「証拠保全」といっても、その内容は、
 押収
 捜索
 検証
 証人の尋問
 鑑定の処分
であるわけで、具体的にどれを行うのかを明確にしておく必要がある。

 先に述べたような、被疑者・被告人が怪我をしているというケースでは、
 検証の証拠保全手続き
をすることとなる。

 怪我というものは、時間の経過により違ってしまっているから、裁判官は保全の必要性が高いと認めることが多いし、私が申し立ててきたものは(といっても、3,4件しかないが)、全て認められた。

 検証というものを見たことがない人が多いかもしれないが、怪我の検証だと
 裁判所内で、被疑者・被告人の写真撮影をしたり、傷の大きさを測るなど
というのが主な内容である。

 もっとも、写真では光の加減で打撲などはうまく写らないことも多いから、傷などの特徴や大きさを調書に残してもらうことが必要だ。

 この調書については弁護人には謄写権がある(180条)。

第180条 検察官及び弁護人は、裁判所において、前条第1項の処分に関する書類及び証拠物を閲覧し、且つ謄写することができる。但し、弁護人が証拠物の謄写をするについては、裁判官の許可を受けなければならない。
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by lodaichi | 2009-06-09 07:38
 当事務所が、新人弁護士を初めて採用したのは、2002年のことである。

 それ以来、新人弁護士には、まず当番弁護士に行ってもらって、スキルを鍛えてきてもらった。
 (その当番弁護士も千葉県では廃止されてしまったので、これからはやり方を変えねばならないだろうが)

 新人弁護士は、一般的なアドバイスということはできるのである。
 例えば、当番弁護士でいえば、
 黙秘権がありますよ
 とか
 供述調書には自分の言われたことが書かれていない限りは、署名押印してはいけませんよ
とかである。
 これらは、当然説明しなければならない事項であるが、新人弁護士の場合には、”事案に応じた適切なアドバイス"というのができないことが多い。

 つまり、新人弁護士は、事実を聴取する能力において劣っているのである。

 なぜ事実を十分聴取できないかというと、何が必要な事実であるのかがわかっていないからである。

 これはある程度は仕方のないことである(修習生でこの部分が鍛えられないから)。

 それゆえ、1回で必要最低限の事実を聴取して、適切なアドバイスを与えることを目的とする当番弁護士は、それを鍛える最適の場であった。
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by lodaichi | 2009-06-04 06:41
前に、「証拠を獲得していくという思考方法」
ということで、弁護人からの証拠の収集を大事にすべきだと述べたが、具体的な手段について考えてみたい。

刑事事件に特有なものとして、しかももっと活用したほうがよいものとして
 ・証拠保全(刑訴法179条)
 ・公務所照会請求(同法279条)
がある。

 この間、新人弁護士君と「公務所照会請求について知っているか」と聞いたら、それは一体何物だというような顔をしていたので、ああこれはやはり知られていないのだなと思った。

 受験勉強や修習中に必ず一度は触れていることと思うが、単なる知識であって、その知識が肉体化していないから忘れてしまうのである。

現在の実務で弁護人が公務所照会請求などの手法を用いていれば、新人弁護士君も「あ、それは見たことがあります」ということになるはずだが、そんなことを弁護人がしていないから、後の世代もわからないのだ。

とりあえず、条文を引用しておくので、こんな手段もあるのだということを覚えておいてほしい。

第179条 被告人、被疑者又は弁護人は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情があるときは、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問又は鑑定の処分を請求することができる。
2 前項の請求を受けた裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

第279条 裁判所は、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
 
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by lodaichi | 2009-06-01 08:56