覚せい剤の持込事案
2005年 06月 14日
例えば、被疑者が、A国でBから、「50万円の報酬をやるから、このキャリーバッグを持っていってくれ」と依頼されて、キャリーバッグを持って日本に入国しようとしたところ、税関の検査でキャリーバッグ内には覚せい剤数キログラムが入っていたことが発覚し逮捕されるような事案。
1 成立犯罪
覚せい剤取締法違反(営利目的密輸罪)
関税法違反(禁制品輸入罪)
両者の関係は観念的競合(最判昭和58年9月29日刑集37・7・110)
覚せい剤密輸罪は、本件の事例では覚せい剤密輸罪は既遂に達している.
関税法の無許可営業罪は、本件の事例では未遂である.
もっとも、未遂減軽の規定が関税法上は排除されているため、関税法違反の点については量刑上未遂を論じる意味は高くない.
2 犯罪の成否について問題となりやすいもの-故意
持込を行う被疑者は、キャリーバッグの中に何がはいているのか明確にはわからないまま日本に持ち込もうとするので、「中身について何が入っているのか知らなかった」という主張が散見される.
そこで、どこまでの認識があれば覚せい剤の営利目的密輸罪の故意があるといえるのかが問題となる.
判例では
「本件物件を密輸入して所持した際、覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識」=「覚せい剤かもしれないし」その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識」
があればよい(最判平成2年2月9日判時1341・157)。
なお、関税法違反の禁制品輸入罪の故意については、「税関を通らない物を持ってはいる」という認識があれば故意ありといえるので、覚せい剤の営利目的密輸罪の故意とは別に考えるべきである.
3 量刑
営利目的の密輸罪であるから実刑は必至である。
量刑上の考慮要素のポイントは、覚せい剤の量、認識の程度(確定的故意か未必的故意か)、密輸に果たした役割(単なる運び役に過ぎないのか、それ以上の役割を果たしているか)、動機等が重要なところとなろうか.
検察官は、被疑者が誰から物件の受け渡しをされたのかについて、その名前を出しているか等の事案の解明にどれだけ貢献したかを考慮して求刑を決めているものと思われるが、裁判官がこの点をどれだけ考慮して量刑をしているのかは不明である(判決中の量刑の理由でもこの点について触れないため)。
事件について、自白しているか否認しているかで量刑が左右されるかは、裁判官によるのではないか