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3年目くらいまでの弁護士向け実務刑事弁護の覚書


by lodaichi

心神喪失者等医療観察法について

1 この法律は、いわゆる池田小事件を契機として2003年7月16日に成立した。本格的な施行は2005年7月16日までの間に政令で定めることになっているが、本稿執筆時点(4月10日)で未だその政令が制定されていない。制定される際には、各地の弁護士会が大反対したが、今ではそれも忘れられてしまったのか、この法律の内容自体を多くの弁護士が知らないようである。本稿は、本法を全くあるいはほとんど知らない方を対象に、ごく大雑把に、本法を描くにとどまる。詳細かつ正確な知識を修得されたい方は、本稿を読むことなく、「精神医療と心神喪失者等医療観察法」(ジュリスト2004年3月増刊:町野朔編)を参照されることをお勧めする。
2 本法は、心神喪失等の状態で重大な犯罪を行った者に医療を受けさせるのか、受けさせるとしてどのような医療なのか(入院か通院か)ということについての要件や手続を定めたものだ。
 手続構造は少年法に似たところがある(職権主義構造である)から、以下必要に応じて、少年法とのアナロジーで説明する。
 審判を受ける者は、少年法では「少年」だが、本法では「対象者」という。 対象者は、殺人・放火・強盗・強姦・強制わいせつ及び傷害に当たる行為をした者である。傷害については、全ての傷害が入るわけではないから(33条23項)、自ずと重大なものに限定されるであろう。
 対象者は、心神喪失か心身耗弱と検察官か判決から認定されたもので、その処分が確定していることが必要である。最も多いのは、検察官が不起訴処分をした場合ということになろう。
3 事件は検察官の裁判所による申立てにより始まる(33条12項)。少年事件が送致で始まるのと似ている。
 次に、少年事件では観護措置がとられることが多いが、これにあたるのが鑑定入院命令(34条)である。鑑定入院命令による入院の期間は原則2ヶ月、場合により1ヶ月の更新ができることになっているから、どんなに長くても3ヶ月以内に事件は終了してしまう。
4 少年事件には付添人がいるが、本法でも対象者には付添人がつく。入院又は通院の審判には、付添人は必要的であり(35条12項)、付添人は、弁護士に限られる(30条12項)。
 付添人は事件記録を閲覧し、事件関係者に聴取するなどして、まず対象行為
を争うか否か検討する必要がある。対象行為がなければ、いくら対象者が心神喪失等の状態であっても医療に付する審判はできないからである。これは、少年事件においても非行事実がなければ処分できないことと同様である。
5 次に、対象者にふさわしい医療は入院なのか通院なのか、それとも医療に付さなくてもよいのかを付添人は検討しなければならない。少年法とのアナロジーで言えば、非行事実が認められるとして、少年院なのか保護観察なのかの検討をするのと同様である(もっとも、少年事件のような試験観察という制度はないが)。
 この検討の際には、「保護者」の協力が必要である。少年事件における「保護者」のような役割を本法の「保護者」も有する。本法の「保護者」は精神保健福祉法上の保護者と同一であり、
後見人(いなければ)→配偶者(いなければ)→親権者(いなければ)→家 裁の選任者
となっており、対象者の家族がなっている場合がほとんどである。
6 これらについて必要な調査をした上で、随時報告書及び意見書を裁判所に提出する必要がある。
 少年事件と同じで職権主義構造を有しており、伝聞法則の適用はないからである。
7 対象行為の有無は要するに事実認定の問題であるから、これまで多くの弁護士が培ってきた能力により対処は可能であろう(もっとも、対象者の知覚記憶・表現・叙述の程度によっては対象者からの供述のみに依存することは危険であろうが)。
 対象者が心神喪失は心身耗弱なのかという点及び対象者にいかなる医療が適しているかについては、精神医療上の知識が必要であり、この点において、今後、本法の付添人となる弁護士は研鑽が必要とされよう。
by lodaichi | 2005-07-16 10:35 | 医療観察法