3年目くらいまでの弁護士向け実務刑事弁護の覚書


by lodaichi

勾留場所変更申請と移送同意

事務所の弁護士から
「ある被告人の件で、裁判所に勾留場所変更申請書を提出したのですが、被告人の移送の日が決まったというので、裁判所からは申請を取り下げられるよう求められましたので、取り下げをしておきました」
という報告があった。

 この運用(取り下げをやんわりと要請されること)自体は、以前から少なくとも千葉地裁ではあったので、この弁護士が取り下げに応じたこと自体は問題ないのであるが、これがどのような法的構造に基づいて行われているのかについては、このブログではまだ書いていなかったようなので、私の考えを記しておく。

 まず、勾留場所変更申請で知らなければならない条文として、
刑事訴訟規則80条がある。

(被告人の移送)
第八十条 検察官は、裁判長の同意を得て、勾留されている被告人を他の刑事施設に移すことができる。

 これは”移送同意”と呼ばれる制度である(改正前は、「移監同意」といったものだが)。
 検察官は、通常この規定をつかって、警察の留置場から、拘置所へ被告人を移送する。

 もうひとつ覚えておかなければならないものある。
 最高裁の平成7年決定である。
 京都弁護士会の若松弁護士の著述(→HP)から引用する


 ”裁判官又は裁判所の職権により、従前の旧代用監獄より拘置所に勾留場所を変更することについては、検察官又は検察官出身者による者の否定説があったが、判例上は肯定説が多かったようである。
 そして、この問題について、平成7年4月12日の最高裁第三小法廷の決定(判時1529号156頁)において、「勾留に関する処分を行う裁判官は、職権により被疑者又は被告人の勾留場所を変更する旨の移監命令を発することができるものと解すべきところ」と判示して、被疑者又は被告人について、裁判官による「職権による移監命令」を発する権限を認めた。これによって、裁判官の職権による旧法上の移監命令の発令は明らかになった。”

 つまり、この決定により裁判所の職権による移送命令が最高裁により認められたのである。

 刑事訴訟規則80条とこの平成7年最高裁決定を大前提として、先の弁護士の言葉を法的に説明していく。

 同弁護士は、
 A ある被告人の件で、裁判所に勾留場所変更申請書を提出したのですが、
 B 被告人の移送の日が決まったというので、
 C 裁判所からは申請を取り下げられるよう求められましたので、取り下げをしておきました
といっていた。

 このうち、Aは、最高裁平成7年決定で認められた裁判所の職権による移送命令の発動を促したものということになる。

 Bは、これが実務の運用なのだが(千葉地裁だけかもしれんが)、裁判所は、弁護人から勾留場所変更申請がくると、求意見を検察官にするのだが、検察官が問題がなければ、検察官は刑事訴訟規則80条に基づく移送を行うのである。
 だから、裁判所からみると、あくまでも弁護人の申請に対して職権を発動したのではなく、検察官サイドの移送に関して、移送同意をしただけということになる。

 弁護人の申請はまだ宙ぶらりんになってしまうのであるが、弁護人には当初の移送という目的が達せられればいいのであるから、裁判所としては、「勾留場所変更申請を取り下げてください」という要請をするということになるのである。

 実は、このような一連の流れは、弁護人が被告人の刑事記録を読みにいけば明らかなのであるが、そのようなまめなことをする弁護士はほとんどいないため、以上の理屈に気がつかないで、ただ裁判所のいわれるがままに取り下げを行っている者が多いのではないかと思われる。

 もしこれを読んでいる修習生がいるならば、刑事記録の第三分類をよくよく見ておいてほしい。
 移送申請がなされたケースでどのように記録がなっているのか、以上のような視点からみていただければ、なにげなくつづられた1枚1枚の書面に意味が付されているのがわかるであろう。
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by lodaichi | 2009-04-24 08:25