人気ブログランキング | 話題のタグを見る

3年目くらいまでの弁護士向け実務刑事弁護の覚書


by lodaichi

弁護人の人数超過許可

最高裁が刑訴規則27条の関係で、高裁決定を取り消し、差し戻しをしているケースがありましたので、紹介します(平成24年5月10日決定)。

刑訴規則27条というのは以下のような条文です。

(被疑者の弁護人の数の制限・法第三十五条)
第二十七条 被疑者の弁護人の数は、各被疑者について三人を超えることができない。但し、当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員の所属の官公署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所が特別の事情があるものと認めて許可をした場合は、この限りでない。


被疑者段階の弁護人の数は、原則3名だが、「特別の事情」があれば弁護人の人数超過許可を得ることができるという規定になっています。
最高裁で問題となったのは、ここにいう「特別の事情」にあたるかどうかです。

最高裁の特別の事情についての判示は次のとおりです。

「刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情については,被疑者弁護の意義
を踏まえると,事案が複雑で,頻繁な接見の必要性が認められるなど,広範な弁護
活動が求められ,3人を超える数の弁護人を選任する必要があり,かつ,それに伴
う支障が想定されない場合には,これがあるものと解される」

最高裁において問題となったケースにおいては、
1 税務申告書に架空の減価償却費用を計上するなどして多額の所得を秘匿したと
いう事件につき,犯意,共謀等を争っている複雑な事案である
2 申立人は被疑事件につき接見禁止中であり,弁護人による頻繁な接見の必要性がある
3 会社の従業員,税理士事務所職員ら多数の関係者が存在し,これらの者と弁護人が接触
するなどの弁護活動も必要とされることなどの事情が認められ,
4 上記のような支障も想定されない
ということから,刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情があるものというべきであるとしています。
# by lodaichi | 2012-05-14 22:58
検察官の公訴事実が不特定であると考える場合の意見書の前ふりを考えましたので、活用してください。
(覚せい剤事件用)

 検察官の公訴事実は不特定であると考える。
 公訴事実は、「**」というものであり、日時が不特定である。
 いわゆる白山丸事件において、最高裁は、「刑訴二五六条三項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防御の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。」と述べて、幅のある記載を認め(最高裁昭和37年11月28判決刑集16巻11号1633頁)、覚せい剤取締法違反事件(使用)においても、「日時、場所の表示にある程度の幅があり、かつ使用量、使用方法の表示にも明確を欠くところがあるとしても、検察官において起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものである」以上は違法の問題は生じないとした。
 しかしながら、本件においては、起訴当時の証拠に基づいてより詳細に特定できるものであって、かつ、特定しなければ被告人の防御に支障が生じる。

 <以下、具体的に論じる>
# by lodaichi | 2011-12-15 22:42

罰金を分割で支払えるか

被疑者・被告人から
 「罰金を分割で支払えますか?」
と聞かれた場合、刑法、刑訴法レベルの知識で
 「分割で支払うというような制度はありません」
と答えてしまうと、これは間違い。


これを答えるには、刑事政策的な知識が必要で、
藤本哲也「刑事政策概論」には
「我が国の実務においては、(罰金の)延納・分納自体は、検察庁法第32条に基づいて定められている徴収事務規程に基づく納付延期の許可、または一部納付許可の制度によって実施されている」
と書かれています。
# by lodaichi | 2011-10-24 22:29
高岡健「人格障害論の虚像」を読む。
高岡医師の著作は、文章としては読みやすいが、 内容は挑戦的。すごく考えさせられる。

この著作の問題意識は、精神科医が「人格障害」と診断してしまっているが、そしてそう診断するのが当たり前となってしまっているが、その当たり前なことがそれでいいのかという問題意識である。

「人格障害」という診断がされることが当たり前になってきているが、それは「人格障害」と診断されたその人を排除する論理として作用しているのではないかという問題意識。

「人格障害」というレッテルを貼って、その障害が悪いんだ、その人個人の問題だとなってしう、それが問題ではないか。
社会として関わりを持とうとする方向に進めなければならないのではないかと。

つまり、
大切なのは、その人と社会とのコミュニケーションなのだ。

そもそも、人格障害といったところで、症状というのは、固定的なものではないし。流動化する側面を忘れてはいけない。

肝心なのは、コミュニケーションの回復。
コミュニケーションを回復するために、人格「障害」と診断する必要はない。
その人の「人格」と評価すれば十分。

以上は、私が高岡医師の本を読んで感じたことだ。

人格障害という診断だけで、刑事弁護人としては思考停止に陥ってしまうのではなく、そこを手がかりに被告人にアプローチを続けることが必要だ。

次の言葉は、高岡医師の言葉。

「人が不幸にして犯罪に至った場合、それは人格の危機の表現に他ならないから、危機に陥る条件を分析し、そこから脱出するシステムを構築する必要がある」

おそらく高岡医師は、精神科医のためにこの言葉を発したのであろうが、これは刑事弁護人にも大いに参考なる言葉だ。
いや、情状弁護の要諦といってもよいかもしれない。
# by lodaichi | 2011-08-01 22:18
 最近の千葉地裁での接見等禁止決定を本記事の最後に記載しておいた。

 新人弁護士君に「修習生のときに接見等禁止決定を目にしたことがあるのかね」と聞いたところ、どうも記憶があやふやなようであった。
 修習生というのは、記録を読んでいるようで、ただ眺めているだけなのだ。
 だから、おそらく目にしているはずであるのだが、記憶に残らない。
 問題意識をもたないと、人というのは記憶からすっぽり抜け落ちてしまうのだ。
 弁護人としては、当然それではいけないわけで、被疑者・被告人にどのような制約が課せられているのかを正確に把握しておく必要がある。

(被疑者段階での接見等禁止決定)
 被疑者に対する**被疑事件について、刑事訴訟法81条に掲げる理由があるものと認め、検察官の請求により、被疑者と同法39条1項に規定する者以外の者(ただし、下記の者を除く。)との接見及び文書(新聞、雑誌及び書籍を含む。)の授受を公訴提起に至るまでの間禁止する。

1 被疑者の勾留されている刑事施設に置かれた刑事施設視察委員会及びその委員
2 被疑者の勾留されている留置施設に係る留置施設視察委員会及びその委員
# by lodaichi | 2011-01-08 17:54